深夜二時を過ぎたら、恋は記録に残らない
外資系ホテル「オストランダー」の立て直しを任されたIolanthe・Vetterli、通称Yola。期限はきゅうじゅう日。サインした行動規約には、ハラスメント相談ひとつで自分のキャリアが終わると書いてある。けれど彼女はまだ知らない。この建物を丸ごと切り捨てるつもりでいるのは、ほかでもない雇い主のほうだということを。
六年間、このホテルの夜を守ってきたのはOttoline・Sarkis-Reyes、みんなが呼ぶ名前はOtto。彼女は毎晩、静かに四十室を無料で人に渡していた。せんきゅうひゃくにじゅうしち年から誰も開いていない、古い台帳のページの上で。
最初はただの取り決めだった。深夜二時を過ぎたことは、何ひとつ数えない。それだけのはずだった。非常階段、使用停止中の客室、監視カメラの死角。人目を避けて重ねた時間は、いつのまにか二人だけの秘密になっていく。指先が触れるたび、声が低くなるたび、戻れない場所へ近づいていくのがわかる。
そして、二人を破滅させるはずだった書類の山が、このホテルを救える唯一の証拠に変わる。
静かな夜と、言葉にならない距離。朝が来る前に、名前の呼び方だけが変わっていく——大人の恋愛サスペンス。
完結
ロマンス
スリラー