茨の契約は、四十一日で終わる
Synopsis
アッシェンマーチの街を囲むのは、三百年前の取り引きから育った生きた茨の垣根——通称〈茨垣〉。イドネア・ブラックウォーター、通称イーダは、その茨を剪定する資格を持つ数少ない職人のひとりだ。 ある朝、彼女の鋏が「あるはずのない」心臓茨を傷つけ、赤い血が滴り落ちた。その日のうちに〈茨の宮廷〉から遣わされてきたのが、取り立て人のオシアン・スレイ。三百年ものあいだ、この街が一度も請求されたことのない負債を、今になって精算するという。 このままでは街ごと差し押さえられる。追い詰められたイーダは、とっさに逆提案を口にした。「四十一日だけ、猶予をください」。契約は成立し、その証として、ふたりの手首は生きた茨で繋がれてしまう。 離れれば茨が締まる。眠るときも、食事のときも、隣にいる。冷ややかな取り立て人だと思っていた男は、けれど彼女が棘で指を切るたび、何も言わずに手当てをした。彼女が朝に何を食べるかを、いつの間にか覚えていた。 〈契約記録院〉の古い台帳をふたりで辿るうちに、隠されていた真実が浮かび上がる。差し替えられた一枚の頁。代々ブラックウォーター家の女だけが捧げられてきた貢ぎ物。そして——二百年も前に、すでに完済されていたはずの負債。 偽られた帳簿を正すには、誰かがその差額を支払わなければならない。帳簿に値をつけられないものが、ひとつだけある。 残された日数は、あと四十一日。
Chapters 6 of 20 chapters free
- 1 咲いてはいけない花 Free
- 2 借りは三百年分、取り立てに来ました Free
- 3 残り四十一日、茨の契約 Free
- 4 茨に縛られて Free
- 5 壁の内側 Free
- 6 契約書庫の四百ページ目 Free
- 7 指輪が知っている嘘 Locked
- 8 夜の当番、綱はひとつ Locked
- 9 炎と誓い、最後の夜 Locked
- 10 愛しき者よ、百年の借りを返せ Locked
- 11 木に埋まった母の顔 Locked
- 12 記録簿 Locked
- 13 取り立ての条件 Locked
- 14 嘘のつけない夜に、あなたは Locked
- 15 棘の月が、三日早く動いた Locked
- 16 とっくに閉じた勘定 Locked
- 17 証人はひとり Locked
- 18 茨の壁が崩れる夜 Locked
- 19 台帳が閉じる夜 Locked
- 20 ただであげる、私の名前 Locked